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『薔薇色の遺書、繭の祈り』制作秘話

  • 執筆者の写真: 花園
    花園
  • 2024年12月5日
  • 読了時間: 14分

更新日:2024年12月9日

注意


このページには『薔薇色の遺書、繭の祈り』を制作するにあたって考えていたこと、

制作過程、コンセプトなどをまとめています。

話の結末にも触れるので、先に本文を読んでから見ていただけたらと思います。

かなり私の個人的な話もあると思うのでご了承ください。





このたびは『薔薇色の遺書、繭の祈り』をお手に取り、お読みいただき本当にありがとうございます。

物語を考え、形にするのはほとんど初めてのことだったので拙い点も沢山あったかとは思います。楽しんでくださっていたら幸いです。




 ○目次○



・登場人物の話




 ステッカーについて

 作業用BGM








描き始めの話


この本は「大学生活最後の芸祭で、自分の集大成になるような本を作りたい!」と思ったところからスタートしました。

画集もいいけれど、せっかくなら物語を作りたい。御伽話を下敷きにしたものやまったく別の話も考えたけど、自分で生まれて初めて物語を作るなら「中学生がひっそりとノートに書き溜めているポエム」のようなものがいい!自分の感情をそのまま煮出したような、痛々しいとか厨二病的とか外側からの目を一切考えず、自分の好きなものをやりたいようにやる!!と最初に決めました。

そのため、中学生の頃の気持ちを思い出すためにまず最初に薄紫色のキャンパスノートを買い、アイデア出しを始めました。



イラストも普段のように全部デジタルではなく、キャラデザや各ページのラフはそのノートの中で生まれています。

最初は漫画を想定していましたがこの短期間でストーリー以前に漫画の作り方から勉強する時間と気力はなく、ならせめて(?)と本文白黒の絵本も考えましたが私の描きたいものを白黒で表現する力量がなく…。結局いつも通りのカラーイラストを用いた絵本という形に落ち着きました。その分時間はかかりましたが、自分の望むようなものができたのではと思っています。


夢や精神世界を題材にすること、主人公が少女であることは最初から決まっていましたが、中々ストーリーが思いつかず…。構図を考えながら、なんならイラストを描き進めながら同時進行で考えていきました。話作りのことは何もわからないので、描きたい場面、展開を決めてそこの前後を繋げていく感じです。


今年の6月頃から構想を練り始め、10月頭に完成しました。イラスト制作に使用したソフトはProcreateで、原稿のデータ作成はIllustrator。作業時間は不明ですが、プロクリ内の作業時間は合計で約105時間でした。





主人公について


彼女には私にとっての「少女」を詰め込んでいます。

いつも1人で過ごしており、心に自分だけの世界がある夢見がちな少女。


ALIPROJECTの

「ゆらゆらと踊るように生きていたい」(月夜のピエレット)

「清く美しくちょっぴり意地悪く 女の子に生まれたのなら」(ローズ家の双子達)

のフレーズが当てはまるような子です。


主人公の少女の名前は作中で出てきませんが考えています。「ローザ」です。

高貴な魂に憧れる、繊細で心の弱い少女。美しい花びらに鋭い棘を持つ一輪の柔らかい薔薇。

名前を出さなかった理由は、基本的に一人称で進んでいくため、名前を出すとなると今の私の力量では無理やり感が出てしまう…と考えたからです。

ちなみに、名前の初期案は「マルガレーテ」でした。



私が一番可愛いと思っている、レースたっぷりの襟とヨークのフリルが特徴的な薔薇色のワンピース。

ウエスト部分にはもう1段階濃い薔薇色の繻子のリボン。

全身はほとんど出てきませんが、ワンピースの裾もフリルになっており、中にはレースのペチコート。靴はノートに「絶対にぷっくりとしたメリージェーン」と書いてありました。



1番お洋服の描き込みを頑張ったページ。

ヨーク部分のフリルの根本には薔薇のブレードがあり、左右対称に細いリボンもあしらわれています。

胸元に結ぶリボンは腰のものと同じ素材をイメージ。


くるくるとした髪の毛は、ディズニー映画『眠れる森の美女』のブライアローズから影響を受けています。『Once Upon a Dream』のシーンで彼女のふわふわと揺れる髪、落ち着いた色調と中世を思わせる背景美術はかなり今の私に繋がっています。


髪型のイメージソースは映画『風と共に去りぬ』(未見ですが…)のスカーレット・オハラと、ミュージカル『エリザベート』(東宝版)の幼少期のシシィです。貴族の子供のような上品なハーフツインテールをイメージしてデザインしました。





ルカについて


ルカはローザそのもの。自分で「魂の片割れ」だと名乗っていますが、ローザの空想上の登場人物、もうひとりの自分です。実在はしていません。


ルカは私の憧れだけで構成されています。私がこれまでに憧れを抱いてきたお友達や先輩、舞台上の役者、空想上の人物…などなど、私が好きだと思う要素と「こんな風になりたかったな」を詰め込みました。


ローザが名前の通り薔薇ならルカは菫。対になる存在です。

薔薇と菫を選んだのは単純に好きだからというのと、もう一つ理由があるのですがこちらは卒業制作が完成した頃にお話ししたいなと思っています。

「ルカ」という名前は最初は主人公の名前の候補のひとつでした。「光をもたらす者」という意味らしく、ローザにとって光となる存在なのでこの名前に決めました。


薄紫色のジゴスリーブのブラウスに、胸元にはジャボタイとそれを留める瞳と同じ色のブローチ。足はスラッとしたズボンとシンプルなブーツ。

くるくるとした白い髪をベロアのリボンでハーフアップにしています。

あまり表現しきれませんでしたが、ローザが巻き毛ならルカはくせっ毛寄りの髪質のイメージです。

髪型のイメージソースはミュージカル『エリザベート』のトート。美しい巻き毛のハーフアップをリボンでまとめている姿月あさとさん演じるトートの、力強さの中にエレガントさのある姿があまりにも大好きなので…


一人称はルカ。「わたし」や「ぼく」と迷いましたが、ローザよりも中性的な印象にしたく、かといって少年と思われたいわけではないので名前を一人称としています。ローザ自身でありながら性別はないようなものです。


作画用に描いたふたりの立ち絵です。本文と表情が結構違う感じがします。



この絵だと身長差はそこまでありませんが、身長はローザが157cm、ルカが164cmくらいをイメージして描いています。あんまり厳密ではないです。





解説


ここからは各ページごとの解説です。

長いので興味のあるところだけでも読んでくれたら嬉しいです。飛ばす方はこちら

(便宜上、本文の最初を1ページ目としてカウントしています)



1-2ページ 夢のなか


自分の夢の世界に浸っているローザ。

蝶は幻想の表れ。それと同時に少女から羽化することの概念そのものでもあります。

あまり特筆すべきことはありませんが、右側の眠るローザは比較的上手く描けてお気に入りです。



3-4ページ 変化


自分の理想だけを夢に見れる時間が終わり、ローザの世界にルカが現れます。

ここの左側のローザが一番お洋服をこだわって描いています。

幻想世界のようでいてローザはずっと自分の中に閉じこもっているため、奥には柵を描いています。

右側、大きなローザの顔と沢山の目は彼女の自意識の象徴です。

ルカとの出会いはローザを前に進めてくれるけれど、同時に純粋にただ少女であることのできる期間の終わりでもあります。このときのローザにとって、ルカは目を背けたい未来です。明日出さなきゃいけない宿題に手をつけてないまま遊んでいるけど、そんなことしていていいの?と脳内の自分が問いかけてくるような感じです。



5-6ページ 薔薇と菫の出会い


ルカを紹介するページなので、作品の中で一番顔にこだわりました。顔を褒めてもらえる感想が多く、とても嬉しかったです。

周りにあしらわれているのは架空の花です。すみれの花がつるバラのようにくるくると生えていたら素敵だなあと思って描きました。ツルスミレとかツタスミレといった名前をつけようと考えていたけれど、既に同じ名前の違うすみれの種類があるそうなのでなんという名前にするか悩んでいるところです。


ルカの魅力を可能な限り表現しようとしていた左側に対し、右側はルカをローザを引っ張り出そうとする、怖そうな存在をイメージして描きました。

自分一人の世界を抜け出して大人になる。ローザにとっては絶望です。死ねと言われているのと変わりません。

そのため、背景に描いてあるのは枯れている薔薇です。


私の勝手なイメージで、この作品では薔薇色は子供(少女)、青は大人、という意味合いで使用しています。菫色のルカはその中間。

そのため、ルカの背後、ローザを連れて行こうとしている方向は青く光っています。



7-8ページ 蝶と蛹


ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』に出てくる芋虫の場面をイメージしています。

ローザが芋虫なのは自身の思い込み。大人にならなければいけないのは分かっているのに心はそれを許さない。ずっと夢に浸っているべき、大人になる必要なんかないと心底思っているのならルカは存在しません。これではいけない、もっとこういう人になりたいと思う気持ちが心のどこかにあります。

今の自分を貫くことも、憧れに近づくこともできない。そんな自分がどうしようもなく惨めで、ぐちゃぐちゃどろどろの醜い存在に思えることってあると思います。頭の荊冠も同じく思い込みで、自分は苦しみもがき、憐れみを受けるべき存在だと思っているローザの気持ちの表れです。彼女はキリストのオマージュではありません。


余談ですが、私は芋虫やそれに近しい姿のものがこの世の生き物の中で一番苦手です。実物でも写真でも直視どころかチラ見すらも怖いくらいです。

でも今回このページが私はどうしても描きたくて、描くためには資料を見なければならないのに画像検索で写真が沢山出てくるのは本当に耐えられないので、ヤン・シュヴァンクマイエルの絵本『不思議の国のアリス』に1ページだけ出てくる芋虫の写真(絵かもしれない)をものすごい遠目で見ながら参考にして描きました。


芋虫のローザに対してルカは美しい羽根を持ち余裕そうにキノコの上に座っていますが、ルカはローザ自身なので羽根は持っていません。空想なのでこの羽根には実体がありません。



9-10ページ 耳鳴り


ここはすごく悩んだページです。ローザの中の葛藤、上手くいかず、自分自身ごと殺してしまいそうになるほどの激情を表したくて描きました。思っていた以上に静的な場面になってしまいましたが…。ぐちゃぐちゃになるのを描きたかったです。

右側の瞳以外はすべて同系色で描いており、私にとって実験でもありました。



11-12ページ 変容


このページもイラストをどう描けばいいかわからず、悩みながら作りました。もっと色々できたかもとも思っています。

反対に本文は全体の中でも比較的先に固まりました。作品を通して今の私の「大人になりたくない」気持ち全開という感じですが、ここは特にそれが顕著だと感じています。

全体的な雰囲気は、敬愛する萩尾望都先生の漫画を参考にさせていただきました。



13-14ページ 慰撫


ふたりの構図はカール・ハインリッヒ・ブロッホ『ゲッセマネの祈り』のオマージュです。この作品に限った話ではありませんが、ゲッセマネの祈りを題材にした、天使が憔悴したキリストに寄り添い、慰める構図にとても惹かれます。

ここのルカの天使の翼も、もちろんローザにそう見えているだけ。彼女は自分自身に傷つけられ、慰められ、対話することで前へ進んでゆきます。



15-16ページ 鼓動


このページは話の大まかなテーマが決まった後、ストーリーより先に構図とセリフが思い浮かび、それを物語に馴染ませていきました。

この絵本を通して私が言いたいことのすべてな気もしています。

このページを好きと言ってくれる人が多くて嬉しい。私もお気に入りです。




17-18ページ 祈り


ここは本文がすべてです。

天国を信じる人たち、シャーロット・ブロンテ『ジェーン・エア』に登場するヘレン・バーンズや、ヴィクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンを想いながら描きました。

人はみんな何かしらをよすがにして生きていると思います。

彼女と私にとってのそれは「少女のまま大人になれること」です。



19-20ページ 少女葬


ローザがルカを受け入れるシーン。唇が触れた瞬間ルカの姿は消え、ローザの魂とひとつになる…という場面がうまく描けず、ここだけコマを分けて漫画的表現をするべきかかなり迷いました。

リボンは遺影をイメージして描いています。

希望的なお話にしたいけれど、やっぱり大人になることは子供の私が死ぬことだとは思うので。



21-22ページ おわり


最初は外に出たあとのローザを描くつもりでしたが、天国に行ったことない私は天国の絵が描けないので、部屋をあとにする彼女を描きました。

結末を読んだ人に委ねたいのが半分、本当にわからないので描けないが半分です。

どんなに強い心で部屋を出たとしても、外の厳しさに耐えられず羽根をぼろぼろにして死んでしまうかもしれないし、案外自分が葛藤していたことを忘れて楽しく飛び回っているかもしれない。

でも、彼女がこの部屋を離れる前の気持ちを保ったまま美しく飛び続けられることを私は願っています。



表紙


羽ばたく瞬間のローザです。

なにを描くべきか本当に悩みました。1番最後に描き始め、入稿の直前に描き上がった絵です。


ルカと並ばせることとも迷ったけれど、ルカはローザの隣にいるのではなく、羽根の一部として描きました。蝶になったあとのローザを支えてくれるのは、きっとあのとき言葉を交わした自分自身なので。





全体のテーマ


「少女の心のまま大人になること」


就活を経験し、あと数ヶ月で大学を卒業する私は大人にならなくていいなんていえません。どうしたって生きていくためには社会に出なければならないのだから。でも、人はそんなに簡単に大人になれないしなりたくない。感性が枯れてしまうなんて想像もしたくない。


まだ社会をほとんど知らない身の、繭の内側にいる今だからこそ描けるなと思い、筆を取りました。どうしても今この時期に完成させたかったので、形にすることができて本当に嬉しいです。


社会に出ること、大人になることと死ぬことは、もう今の状態に戻れないこと、この先どんな自分になるか分からないという意味でほとんど同じものだと今の私は考えています。

なのでこれは少女の遺書です。少女の命が終わる前の最後の言葉です。

死も成長も、生きていれば必ず全ての人が体験します。永遠の命も永遠の少女もありえない。


でも、心はきっとその限りではありません。私が望み続ける限りは枯れずに咲き続けられる。だから己の魂の中でだけでも、少女の心が永遠であれますように。





おまけ


本文には直接関係はないけれど、ちょっとしたお話をまとめています。


ステッカーについて


作業中のBGM






さいごに


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

本もこの文章も、私が誰かに聞いてほしくて書いただけですが、少しでも楽しんで貰えたら嬉しいです。

もし、あなたが私と同じ気持ちになったことがあり、この本があなたの心に何かを与えられたのなら本当に幸せです。

少女の心は死なない、をこの本だけの幻想として終わらせないために、これからも創作活動頑張りたいと思います。よければまた作品を見てくださると嬉しいです。


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